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俳句 9 句 風子
風花の美しき不安の中にゐる 梅林の香りの渦にゐて孤独 うかれ猫この世の涯はポアンカレ 春愁といふ名の贅を極めけむ 先頭を預言者が行く蟻の列 人の世や蹲いてイヴ髪洗ふ 絶世の美女を見ている穴惑ひ 短日の他人の中にゐる私 熱燗や天下のことは譲れない 俳句 29 選 1 古池や蛙飛こむ水のをと 松尾芭蕉 2 閑さや岩にしみ入蝉の声 松尾芭蕉 3 荒海や佐渡によこたふ天河 松尾芭蕉 4 春の海終日のたりのたりかな 与謝蕪村 5 雪とけて村一ぱいの子ども哉 小林一茶 6 柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺 正岡子規 7 糸瓜咲て痰のつまりし仏かな 正岡子規 8 赤い椿白い椿と落ちにけり 河東碧悟桐 9 遠山に日の当りたる枯野かな 高浜虚子 10 秋風や模様のちがふ皿二つ 原石鼎 11 足袋つぐやノラともならず教師妻 杉田久女 12 滝の上に水現れて落ちにけり 後藤夜半 13 くろがねの秋の風鈴鳴りにけり 飯田蛇芴 14 金剛の露ひとつぶや石の上 川端茅舎 15 降る雪や明治は遠くなりにけり 中村草田男 16 頭の中で白い夏野となってゐる 高尾窓秋 17 苺ジャム男子はこれを食ふべからず 竹下しづの 18 囀をこぼさじと抱く大樹かな 星野立子 19 戦争が廊下の奥に立ってゐた 渡辺白泉 20 方丈の大庇より春の蝶 高野素十 21 蠅とんでくるや箪笥の角よけて 京極杞陽 22 水ゆれて鳳凰堂へ蛇の首 阿波野青畝 23 鉛筆の遺書ならば忘れ易からむ 林田紀音男 24 湾曲し火傷し爆心地のマラソン 金子兜太 25 泥鰌浮いて鯰も居るというて沈む 永田耕衣 26 木にのぼりあざやかあざやかアフリカなど 阿部完市 27 チューリップ花びら外れかけてをり 波多野爽波 28 たてよこに富士伸びてゐる夏野かな 桂信子 29 石段のはじめは地べた秋祭 三橋敏雄
短歌 11 選
1 春みじかし何に不滅の命ぞと ちからある乳を手にさぐらせぬ 与謝野晶子 2 後世は猶今生だにも願はざる わがふところにさくら来てちる 山川登美子 3 白鳥は哀しからずや空の青 海のあをにも染まずただよふ 若山牧水 4 君かへす朝の舗石さくさくと 雪よ林檎の香のごとくふれ 北原白秋 5 早春のレモンに深く立つるナイフ をとめよ素晴らしき人生を得よ 葛原妙子 6 たとへば君ガサッと落葉すくふやうに 私をさらって行ってはくれぬか 河野裕子 7 冬の日の眼に満つる海あるときは 一つの波に海はかくるる 佐藤佐太郎 8 観覧車回れよ回れ想ひ出は 君には一日我には一生 栗木京子 9 寄せ返す波のしぐさの優しさに いつ言われてもいいさようなら 俵万智 10 のぼり坂ペダル踏みつつ子は叫ぶ「まっすぐ?」 そうだ、どんどんのぼれ 佐々木幸綱 11 ひまわりのアンダルシアはとほけれど とほけれどアンダルシアのひまわり 永井陽子 |